オフ会Ⅱ:自己嫌悪編
2018年1月26日金曜日、大学の試験が全て終わった。
四日前に買ったエロゲも大詰めを迎えたところであった。
その日の夜、定期的なメールの確認を行っていた時にとあるメールがあることに気付いた。
『
お世話になっております。
昨年は私達のワークショップにお越しいただきありがとうございました。
直前のお知らせで恐縮でございますが、明後日1月27日(土)に今年第1回目の
ワークショップを実施することとなりました!
ご都合よろしければぜひ以下よりご応募いただけますと幸いです。
お会い出来ることを楽しみにしております。
activo.jp/articles/68604
どうぞよろしくお願いいたします。
』
昨年の夏の山の日にあの生き甲斐オフ会を実施した例の団体から来たようだ。
昨晩に届いたものであるが、恐らく直前になって数が足りず参加者を探しているのだろう。
昨年の秋にもこの例の団体はイベントを実施しており、俺はそれに参加申請はしたが当日はドタキャンして行かなかった。
それからバス団員からのLINEは一切来ていない。
ドタキャンで呆れられたからだろう。
その秋イベントの前にはバス団員がLINEで「参加しませんか」とイベント参加を勧めてきたりしたが。
正直に言うとLINEを広告利用されるのは煩わしい。
明日から春休みで、3月末まで学校は休みだ。
丁度暇だと思っていたところだ。
久し振りに参加してみよう。
俺は参加申請した。
2時間弱後、例の団体から確認メールが来た。
『
ご応募いただきまして誠にありがとうございます。
以下の通り詳細をお送りさせていただきます。
明日はお会い出来ることを楽しみにしております。
★ワークショップ名★
自分をもっと好きになろう 〜嫌いな所も視点に変えてみる〜
★日時★
2018年1月27日(土)13:30〜16:30
(13:20に下記会議室集合でお願いいたします)
★場所★
芝浦港南区民センター/講習室
www.shibaura-konan-civiccenter.jp/shisetsu/access.html
★当日に向けたご準備★
「自分の嫌いなところとその理由」について考えてきてください。
(紙などにまとめる必要はございません)
★持参物★
筆記用具、ノート、ご自身のお飲み物
★ワークショップの目的★
このワークショップは自分の嫌いなところや自分自信を否定してしまう
原因を書き出し、周りの人から違う視点の意見をもらい前向きに自分の
嫌いなところを受け入れる、というきっかけをつくる、又はそんな気持ち
を作る、という事を目的に行っていきたいと思っています。
★当日の流れ★
当日はグループに分かれてもらい、自分の嫌いなところを書き出してもらい、
頭の中を整理してもらいます。
その後に、一人一人グループの中で自分の嫌いなところについて話し合っていき、
その中で解決策や違う視点から話し合っていきます。
★その他★
1.当日はワークショップの様子を写真撮影させていただきます。
原則お顔が映らないようにいたしますが、ホームページへの掲載等
が難しい場合はその旨ご連絡いただけますと幸いです。
2.Graduceはホームページにて日頃の活動をご紹介していますので、
ぜひご覧ください!
graduce.amebaownd.com/
ご不明点ございましたらお気軽にご連絡ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
』
前日夜というイベント直前に参加申請したにも関わらず参加は出来るようだ。
次の日の朝、再び例の団体からメールが来た。
『
おはようございます。
本日13:30よりワークショップをおこないます。
ご参加をご希望いただき誠に嬉しく思います。
初対面の方とお話する機会ですので、緊張されるかと思いますが、
(私達も緊張しています…)ぜひリラックスしてご参加くださいね。
以下の場所はJR田町駅から少し歩きますので、ぜひお時間に余裕を
持ってお越しください。
芝浦港南区民センター/講習室
www.shibaura-konan-civiccenter.jp/shisetsu/access.html
それでは後ほどお会い出来ることを楽しみにしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
』
俺は彼らにもし前回ドタキャンした理由を訊かれたらどう答えるか考えた。
レポートが終わらなかった。
これで行こう。
そこまで個人のプライベートに突っ込まれはしない筈だ。
◇
この例の団体『Graduce』は前回俺が行った時は団員は全てで6人であったが、この半年の間に新団員を募集し今は8人になっているらしい。
新しく入った団員は男女の2人であるらしく、団体のFacebookでその2人が自己紹介していた。
その内女の方の自己紹介を見るとあの夏のイベントに来た参加者の内の誰かであることが判明した。
あの時は女性参加者は2人しかいなかった。
それに加えこの苗字は聞いたことがあるような…。
因みにあの日会った奴の名前は団体設立者以外覚えていない。
団体のFacebookの写真を見ていると見覚えのある顔を見つけた。
一番左端にいるのはもしかして前回のオフ会で保育士であると述べた参加者か…?
だとしたらやはりその女性新団員というのはそいつ、即ち保育士団員であるのだろう。
保育士団員の隣にいるのはバス団員、その隣の男子は…知らないな。
もう1人いる女子は対面団員か…?
ホワイトボードの前に立っているのは団体設立者だな。
それにしてもあれからもまともに白米を食っていないが保育士団員には何か言われるであろうか。
◇
寝落ち仕掛けたが幾重にも仕掛けた目覚ましのお掛けで時間通りに出発出来た。
品川駅から山手線に乗り換え次の駅の田町駅に下車した。
電光掲示板を見た。
芝浦港南区民センターはどちらの出口にあるか書いてあるくらいには知名度があるらしい。
案内に従って駅を出た。
Googleマップを起動して前日マークしておいた場所に向けて歩く。
少し歩いた後に公園に辿り着いた。
公園に隣接した場所に芝浦港南区民センターは存在した。
13時前に到着し芝浦港南区民センター内へと入った。
オフ会は13:30開始、13:20集合とのことだ。
時間まで待合スペースに座って待つことにした。
迷うのを見越して早めに来たので仕方が無い。
椅子の脚が短いのでスマホを見る為に腰をかなり曲げなければならなかった。
腹痛がした。
大便だろうか。
こんな時に厄介なものだ。
オフ会はこの建物1階の講習室という場所で行われる。
この建物の施設は前回の生き甲斐オフ会の時の食事処の部屋と同じ様に、決めた時間を予約して利用するというものらしい。
講習室に行くには談話スペースの傍らを通らなければならない為、参加者達は俺の姿を視認することになる。
俺はスマホで英字新聞を読みながら時間を潰した。
13:20頃になり講習室にそろそろ行こうかと考えた瞬間、少し離れた場所から声を掛けられた。
司会団員と…予想通り、保育士団員が居た。
「覚えてる?」
司会団員は笑いながら訊いてきた。
渾名を覚えられていた。
前回来なかったことに関しては何も触れられなかった。
司会団員は今日はバス団員は来ていないことを言った。
何故そのことを態々俺に話したのかは分からない。
前回一番よく話していたからかもしれない。
◇
司会団員と保育士団員に講習室に案内された。
司会団員が率先して中に入り、保育士団員が内開きの扉を抑えていてくれた。
軽快なBGMが掛かった部屋の中には既に人が何人かいた。
「コートはここに掛けていいよ」
拒否をすると驚愕された。
部屋の中では上着は脱ぐものだという固定観念が彼らにはあるのだろう。
適当に寒い等という理由を付けた。
「大丈夫なの?暑くない?」
本当は着脱が面倒だっただけだ。
司会団員達は気を利かせて部屋の温度を上げようとしていた。
暑い。
俺はコートとネックウォーマーをしたまま講習室内を歩いた。
「あそこに座ってもらえる?」
自分の座る席は指定されているらしい。
団体設立者の隣席だと言われた。
しかし座った途端に司会団員から席が違うと指摘された。
どうやら団体設立者の座る場所が間違っていたらしい。
付随的な問題で席の誤謬を引き起こした俺は改めて正しい席に着いた。
この部屋にはテーブルが3つあった。
前回と同じ様にテーブル毎にグループを分けるのであろう。
このテーブルには未だ俺の他には1人の女子しか居なかった。
時間があったのでスマホで英字新聞を読んでいると近くにいた司会団員から訊かれた。
「英語読めるの?」
無理に気に掛ける必要はないのだが。
俺は1人で放置していてくれた方が心地良い。
逆に気が散るので邪魔をしないでくれ…等とは口に出して言えない。
彼らは名目上多様性を認めてはいるが理解は出来ていない様だ。
「俺英語読めないからうらやましい」
話し掛けられて集中出来なくなったので俺は一旦スマホから目を離した。
同じテーブル席の対面にいる女子は先程から何もせず手持ち無沙汰にしている。
丸い顔をしており、大学生位に見えた。
丸顔参加者は先程から疎外感を感じたりしないのかと思った。
団員達は一般参加者とは対等に関わる訳ではなく、専ら複数回参加者とよく関わる傾向にある。
俺だったらそんな内輪的空気があったら物凄く帰りたくなるであろう。
ふと入口から入ってきた一般参加者が受付で名前を訊かれていたのを目撃した。
そういえば今回俺は団員達に名前の確認もされていないと思った。
団員達に覚えられたら自己申告は必要無いということか。
「これに名前かニックネームを書いてください」
恒例なのか、暇そうにしていると前回でも配布されたのと同じ名札入れと紙が配布された。
勿論首に掛けずに放置した。
13時30分になったが1人だけまだ来ていなかった。
数分後最後の1人が遅れて講習室に入って来て俺の隣に座り全員揃った。
◇
全員集まったところでスクリーンが動き出した。
「皆さん今回は忙しい中お越しいただきありがとうございます」
司会団員がスクリーンを進めながら話して行く。
「『Graduce』は『gradation』と『duce』から─────」
例の団体の簡単な紹介、今回のオフ会の主旨を10分程掛けて発表した。
次に早速グループワークに移る…という訳にはやはりいかなかっ た。
司会者を交代し別の女性の団員になった。
先程少しばかり絡んできたが知らない奴だ。
周りと比べて見た目からして派手であり、ギャルの様にも見える。
ギャル団員は次の説明を行った。
全体で自己紹介を行うことになった。
どうせ各テーブル毎で分かれてグループワークを実施をするのだから全体で自己紹介をするのはあまり意味は無いであろうが、口を挟む余地はない。
講習室には机の固まりが3つあり、各々に5人、4人、4人と振り分けられていた。
俺のいた場所は5人グループであった。
今回の自己紹介は名前、出身、今ハマっていることの3つを発表することになった。
最初に司会者のギャル団員から自己紹介をした。
やはり他と比べて派手な印象である。
女団員の中では1番コミュ力が高そうだ。
次に一番端っこの席の司会団員が自己紹介をした。
前回から知っている人。
痩せた感じの陽キャ団員。
次に司会団員の隣の知らない男子が自己紹介をした。
どうやら彼も団員の1人であるらしい。
次に幸薄そうな顔の参加者が自己紹介をした。
「学校でボランティアを何かするという課題が出されたので、今回このボランティアに参加しました」
これはボランティアとは違うような気がするが…。
3番目の問いには小説を読むことと答え、幸薄い印象付けに拍車を掛けた。
次に幸薄参加者の隣の男子が自己紹介をした。
ポケットに両手を突っ込みながら流暢に話すカリスマ性がありそうな一般参加者。
この4人は講習室に入って右奥のテーブルの席であった。
次に俺のテーブルの団体設立者が自己紹介をした。
俺が名前を唯一覚えている人。
眼鏡を掛けている高身長の団員且つ団体設立者。
次に団体設立者の隣の丸顔参加者が自己紹介をした。
「なにかボランティア活動をしたかったので─────」
丸顔参加者も幸薄参加者と同じ様なことを言った。
だからこれはボランティアと言えるのだろうか。
次に団体設立者の対面の男子が自己紹介をした。
少し根暗の雰囲気がある一般参加者。
「ボランティアを─────」
根暗参加者までもが幸薄参加者と丸顔参加者の2人と同じ様なことを言った。
次に根暗参加者の隣の俺が自己紹介を行った。
何人かの団員が笑った。
そういう内輪的な雰囲気を作るのは止めた方が良いと言っておろうに。
この4人とギャル団員の5人は講習室に入ってすぐ近くのテーブルの席であった。
最後に3つ目のテーブルに座る奴らが自己紹介をした。
俺が先程最初に間違って座っていた席に座る参加者。
今回が二回目であり連続参加である一般参加者。
見た目からして一言でおっさんと形容できる一般参加者。
そして保育士団員。
この4人は講習室に入って左奥のテーブルの席であった。
以下、団員について述べる。
どうやら今回来た団員は5人いるようだ。
各々のグループにも上手く分けられている。
事前に参加者達の座る席を決めるのもこれを図る為であろう。
先述した通り、この前回から今回までの間に例の団体は団員数を6人から8人に増員している。
前回のオフ会に参加した団員は5人、未参加団員は1人。
今回のオフ会に参加した団員は5人、未参加団員は3人。
以下、今回の一般参加者について述べる。
今回の一般参加者数は前回より1人増えて8人。
一般参加者の中で一番話せば仲良くなれそうなのは幸薄参加者だろうか。
何となく保護欲が湧く程度には幸薄さを放っている。
おっさん参加者は衝撃だった。
まずこの手のイベントは団員達もそうだが、参加者も20代が殆どなのだ。
確かに参加条件は「大学生若しくは社会人」であり中年男性も参加が可能であることは見越していたことだが、実際に20代だらけの集団内で見掛けることになると途方も無い違和感を感じるものだ。
カリスマ参加者と連続参加者は雄弁でよく語る。
こんなところにいないでその能力をさっさと社会で生かした方がいい。
幸薄参加者と丸顔参加者と根暗参加者の3人は何かボランティアを行う為に応募したと明言した。
彼らも恐らくは俺と同じくアクティボ等のボランティアサイトを彷徨している時にこれを見付けたのであろう。
ボランティアサイトにある為にこのイベントもボランティアの一種だと思い易い。
この団体の団員になることなら一種のボランティアになるかもしれないが、只の一般参加者としてこの様なイベントに参加するだけでは所謂ボランティアと言えるボランティアではないのではないかと考えられる。
以上男子8人、女子5人の13人が今回イベントに参加することになった奴らであった。
◇
自己紹介後、各テーブル内で簡単なミニゲームをすることになった。
前回では思想強制ゲームを行ったが、それと目的は同じ様なものであろう。
「─────最後の人は難しいかも」
俺はふと意識を外していてミニゲームの説明を全て聞き流していた。
説明の最後の難しくなる人がいるという言葉だけは辛うじて聞こえたので俺は何とかそれが回避出来る様に懇願した。
俺の意を汲み取った団体設立者が俺からやることを提案し、グループ全体もそんな雰囲気になった。
しかしこれから何をするのか全く分からない。
「じゃあ好きなもの何か言って下さい」
ギャル団員が言った。
本当に一体何をする気なのだ。
戸惑いつつ何とか回答すると団体設立者とギャル団員が次の奴が何をするか説明していく。
次の順番であるらしい根暗参加者も相応に困惑していた様子であったので説明を聞いていたとしても最初から理解しにくいものであったのだろう。
「好きなものは?」
「野菜炒めが好きです」
「野菜炒め限定?生とかじゃなくて?」
俺は特に回答に何も突っ込まれなかったことに安堵した。
団員達には前回説明したので疑問には思われなかったのだろう。
根暗参加者が意を決した様に言った。
…何を言っているのかと思った。
次に団体設立者が喋る。
漸く自体を把握した。
つまり「○○が好きな○○の隣にいる、○○が好きな○○の隣にいる、─────○○が好きな○○です」と順に覚えて言っていくゲームであるようだ。
確かにこの具合だと最後のギャル団員は一番難しくなりそうだ。
俺は全く覚える気がなかった。
ミニゲーム終了後小話をした。
現在の大学の話になった。
丸顔参加者は演劇系、根暗参加者は福祉系のところに通っているらしい。
丸顔参加者は22歳であり、根暗参加者は21歳であるらしい。
尤も、丸顔参加者は一浪しているので学年は2人共に3年であるらしい。
団体設立者が来年から就職で忙しいね、グループディスカッションが大変だよ、等と話した。
ギャル団員も現役大学生であるらしい。
「俺も大学生です」
「ウソでしょwwwww」
即ちここは団体設立者以外の全員が学生のグループであった。
「これからタメで普通に話さない?」
団員達が提案した。
しかし一般参加者達はそれ以降も丁寧語を使用した。
話に一切加わっていなかった俺もそこで当然の様に話を振られた。
空気のままで良かったのに。
俺は年齢を訊かれた。
「私もハタチです!」
右隣のギャル団員が反応した。
ギャル団員が話しているのを見るとそこまでギャルというような雰囲気でもないかと考えた。
バス団員や対面団員、保育士団員は俺の大学にいてもおかしくなさそうな外見ではあるが、ギャル団員は俺の大学内にはあまり居なさそうな外見である。
一応バス団員、対面団員、保育士団員は社会人であり、ギャル団員は大学生である為、これは身分差というものであろうか。
社会人ではあまり派手な装いは出来ないのであろう。
しかしギャル団員自身もそこまでけばけばしいギャルという訳でもない。
話している分には十分普通の人間の様に思えた。
◇
一枚のワークシートが全体に配布された。
一番上に自分の嫌いなところを書く欄があり、その下にその理由を書くスペース、更に下には気付いたことを書く欄があった。
気付いたことを書く欄は嫌いなところを書く欄よりも2倍程大きかった。
嫌いなところより改善点や好きなところを多く見つけて欲しいと示唆しているのであろうか。
嫌いなところを書く欄は思い付くことを適当に書き出してしまえば直ぐに埋められてしまう程度の大きさであった。
各自集中して書く時間になった。
15分もある。
どうせ碌なことは書けない。
俺は数分で書き終えた。
暇を持て余す。
トイレの志向を希望した。
「いいですよ。トイレの場所分かりますか?」
ギャル団員が返答した。
実のところ場所はまだ分からないが説明する手間を掛けさせるものでもないであろう。
トイレ如き自分で探せば良い。
そう思いながら席を立ち上がり部屋の扉の前に立ち扉を開けようとした。
しかしドアノブが上手く回らない。
試しに引いてみてもガタンガタンと音が鳴るだけ。
引いて駄目ならということで押してみてもやはり暖簾に腕押し状態であった。
「ああ、それはねー…私も最初開けるの3分くらい掛かった」
ギャル団員が立ち上がり近くに来てドアノブに手を掛けた。
「ちょっとコツがいるのこれ」
何だその途轍も無く不便な扉は。
普通のドアノブの様に取っ手を下に回すのではなく、上に少し回したところで引いて開けた。
仕組みが丸で分からない。
お礼を言って部屋の外に出た。
待合スペース前を歩きながらトイレは何処にあるか見渡す。
直ぐに視線の先にトイレの看板を発見した。
トイレに入った際団員とすれ違った。
何故かすれ違った時に挨拶してしまった。
スマホの時間を見た。
14時15分。
講習室に戻る。
外からは扉は普通に開けられた。
自分の場所に戻り座る。
他の奴らは熱心に欄を埋め尽くすまで書いている。
団体設立者が先程から部屋内に掛かっていたBGMを止めた。
真面目な雰囲気にしたかったのであろう。
まだ時間が残っていたので他の奴らを観察した。
丸顔参加者とギャル団員は350mLサイズの暖かいお茶を机上に置いていた。
どちらも普通のお茶だ。
別のテーブルを見る。
連続参加者はリプトンのレモンティーを、幸薄参加者はトロピカーナのオレンジを机上に置いているのが見える。
持ってきている飲み物の選択にも性格が反映されているような気がした。
時間になり順に発表することになった。
別のグループでは誰から発表するかジャンケンで争っていたが、このグループでは団体設立者が自ら先陣を切った。
左回りに実施することになった。
「左回りってどっち?」
「自分から見て左でしょ」
団体設立者、丸顔参加者、ギャル団員、俺、根暗参加者の順に発表することになった。
発表時間は15分。
1人辺り3分か、どう話をまとめて話そう…と考えていたところ、1人辺りの時間が15分であったことに後に気付いた。
ギャル団員がセットしたストップウォッチが5分毎にピピピッと音を鳴らす。
団体設立者は要約すると人と話す時に考え過ぎてしまうこと、飽きっぽい性格であることを話した。
俺と同じ様なものだ。
「孤独は好き?」
団体設立者が全員に問い質す。
丸顔参加者は場合に依ると答えた。
根暗参加者は成る可く人に合わせたいと答えた。
ギャル団員は逆に一人になりたいと答えた。
俺は孤独は好きだと答えた。
「そうなんだ」
「すごい」
全員少し驚いた様な、感心した様な表情をする。
「どうして?」
一人だと自由に何でも出来るからだと尤もらしく説明する。
「いいなー、羨ましい!」
ギャル団員が羨望の眼差しで見てきた。
孤独にその様な感情を向けられたのは初めてである気がする。
「私もね、一人の環境を作りたいんだけどなかなかできなくて。だからうらやましい」
一人になる方法は至って簡単だ。
誰とも関わらなければ良い。
ギャル団員の発言は今の俺には何も感じなかったが、聞く人によっては物議を醸すものであるだろう。
本当に自分が嫌いな奴はこんなところに来る前に自殺をするか引き篭るかをしている。
これは前回と同じである。
彼らは他人と会話する程度の精神的余裕はあるのだ。
その後、団体設立者は初対面では話せるが2度目以降会う度に何を話せば良いか分からなくなるとも話した。
団体設立者は今度また海外に行くらしいがその行動力があれば何でも出来る気がする。
実際に就職して働いているし、この様な団体も設立している。
前回の時に俺は彼らの悩みについて「贅沢な悩み」だと言ったが、この自分の嫌いなところというのは老若男女問わず誰でも思い抱えていることであろう。
上には上がいるが、下にも下がいる。
しかし不幸とはその本人がそう感じるからこそ存在し得ることであり、相対的なものではないとも聞いたことがある。
トラウマとはその本人があると感じるからこそ存在し得ることだと、この前アドラー心理学について調べていた時に学んだ。
「嫌われる勇気」について、前回では読破せずに自分に合わなかったと俺は適当に感想を述べた。
「嫌われる勇気」とはアドラー心理学についての本であるが、Amazonレビューでは大絶賛されていた。
ふと思い立って批判意見を調べてみたところ案外あることに気が付いた。
絶賛ばかりのAmazonレビューにもよく見ると批判的なレビューが少なからず存在していたようだ。
『
★☆☆☆☆辛くなりました。
投稿者mi2017年7月16日
自分の生い立ちに未だ悩まされている30代です。
社会に出るまではいわゆる良い子でした。
親の顔色を伺いながら、自分を殺し、否定し、生きてきました。
子どもの頃に子どもらしく生きることが出来ませんでした。
学生時代まではそれで通用してきたのですが、
社会人になる段階でつまづき、以来社会の波に乗れず、転職を繰り返しています。
病院に行くほどではないと自分では思ってはいますが、日々強烈な生きづらさを感じています。
そろそろ本気で変わりたい。変われるかもしれないと、救いを求める気持ちからこの本を手に取りました。
しかし……3分の1ほどを読んだところで、物凄く辛い気持ちになっていることに気が付きました。
なんていうか、階段の上から突き飛ばされて、骨が折れて痛いのに、「その痛みは自分で選びとっているのだ」「突き飛ばされたのも自分で選んだことなのだ」と言われているような……。
もしかしたらその先に救われる内容が書いてあるのかも知れません。
でも、私は読み進めることが出来ませんでした。
トラウマなどない……それが事実なら、どんなに良いでしょう。
それなら、PTSDに苦しむ人などいなくなりますよね。
これは心理学の本ではなく、ただの自己啓発書だと思います。
心の土台が健やかな人が、更に自分を高めるための本。
本格的に心が疲れている人が読むと、余計辛くなります。
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』
どうやら調べたことをまとめるとアドラー心理学とはアドラーという人が鬱の自分を戒める為に作った考え方であるという。
ある程度余裕がある人間にとっては良い薬になるが、本当の鬱状態にある人間にとっては合わない考え方であるらしい。
鬱の人間がアドラー心理学について簡易に述べた「嫌われる勇気」を読むことによって更に症状を悪化させることもあるようだ。
自分の考え方は間違ってはいなかったと知って安堵した。
─────と考え事をしていると話を振られた。
話の内容を聞いていなかった。
全員黙って答えを待っている。
一体何を訊かれたのか全く分からない。
畢竟適当に答えた。
それで無事話は流されたようだ。
急に話を振られても困る。
丸顔参加者も要約すると考え過ぎてしまうといった団体設立者と似た様なことを述べた。
丸顔参加者の発表が終わると10分の休憩に入った。
休憩後にギャル団員が発表した。
ギャル団員は自分は完璧主義ではない完璧主義であると述べた。
分かりにくいがつまりは自分を嫌い易いということだ。
今年の成人式は故意に海外に行っていたとも告発した。
そこまで地元に居たくなかったか。
外見に見合わずあまり友達がいないと明言しているのは少し驚きではあった。
到頭俺の順番が回ってきた。
発表する前からどう説明するか脳内でシミュレーションしていたが、実際に発表することになるとしどろもどろになった。
自分も彼らと同じく考え過ぎたりすることを述べた。
「それ私も言いました」
全く聞き覚えがない。
考え事をしていて聴き逃したのだろう。
「昔から自分についてそう思っていたの?」
俺がこうなった要因は説明すると長くなるのでどうやっても彼らには正確に伝えることは出来ない。
ここは一言当て嵌る適当に思い付いた理由を述べることにした。
概して碌でもないことを話した。
彼らはそれらの説明で漸く俺の孤独の意味を理解したようだ。
一通り話し終えるとギャル団員が俺に代わり自分の過去の出来事について語り出した。
長く語ってくれるお陰で余りの持ち時間で俺が話さなくて済む。
ギャル団員も中学時代は周りの女子達から標的にされていたというらしい。
「女子はすごい陰湿だよー」
「ホントですよね!」
「だよねー?!」
丸顔参加者とギャル団員が共感し合っていた。
確かに女子のいじめは特に精神的に追い詰めるスタイルに長けていると思われる。
俺もその経験者だ。
「そういえば今私と同じ歳だったよね?この前の成人式は行った?」
ギャル団員の外見と内情のギャップが大きい。
いじめの経験について語る一番意外な人間であった。
「私も成人式行ってない!同じ仲間!」
ギャル団員は激甚に共鳴する様相を呈した。
そんなに歓喜することであろうか。
まあ確かに、如何にもリア充っぽい奴が成人式に行かないとは裏に何か事情が在りそうだ。
結局話が途切れ途切れになってしまった気がした。
残り時間も5分を切っていたので話を纏めることにした。
そんなところで俺の発表は終焉を迎えた。
言いたいことはある程度言えたとは思った。
「他のところはもう終わっちゃたから雑談していて下さい」
今の4人目の発表で他の2グループは全員の発表を終了した。
しかしこのグループだけ5人グループであるので再び15分時間を取ったのだ。
最後に根暗参加者が語った。
周りが騒がしかったからか真剣な雰囲気は感じられなかった。
◇
根暗参加者終了後、ギャル団員が再び前に出て司会を行った。
ギャル団員が最後に締めの言葉を言った後、前回と同様に各々が今日の感想を言っていくことになった。
一般参加者の中では連続参加者とカリスマ参加者の感想が特に長かった。
話す内容に質と量の両方を伴っていた。
あれくらい俺も咄嗟に考えたことを流暢に話してみたいものだ。
因みに俺は数秒で終わった。
全員の感想発表後解散となった。
今回はスマホ交換タイムは無いようで、一般参加者達は各々帰宅準備が終わった奴から部屋から出て行った。
俺は何となくテーブルに座り続けていた。
気付くと講習室の中には団体設立者ともう1人の男団員とギャル団員と俺しか居なくなっていた。
団体設立者ともう1人の男団員はテーブルを元の位置に動かす作業をしていた。
俺が座っている所為でこのテーブルが戻せないのではないかと思慮した。
話しているとやがてギャル団員が立ち上がったので俺も立ち上がる。
俺達が使っていたそのテーブルも元の位置に動かされる。
俺も椅子を渡したり仕舞ったりして少しだけ手伝った。
「これで合ってるの?」
「どうなってたっけ」
団員達はテーブルの初期配置を忘れてしまったらしい。
俺はスマホでこの建物の公式サイトを見た。
講習室の配置図が載っていた。
ギャル団員に無言で近付きそれを見せた。
「うん。これでいいみたい。ありがとう!」
俺はその後も部屋内に居続けた。
帰っても何もすることが無いのだ。
17時前になって再びギャル団員が声を掛けて来た。
出入口まで送っていくというらしい。
早く出て行けと言うことか。
俺は渋々立ち上がりギャル団員に先導される形でその場を去った。