オフ会Ⅲ:試験前編

2018年7月6日朝、気紛れで例の団体のブログを見ていたら昨晩に投稿されたばかりのオフ会最多参加者へのインタビュー記事を発見した。


https://ameblo.jp/graduce/entry-12388759927.html

俺より多く参加している暇人が居たのか。
インタビュアーの団員は司会団員とバス団員であろうか。
記事を読んでいると或る文章が目に留まった。

『3~4年前、仕事が忙しく人生の意味が分からなくなっていたんですよ。“なんで自分は生きているのだろう。自分は何をやっているのだろう。”と無気力になっていました。同時に“このままでいいのか。このような状態が続くのは耐えられない。自分の幸せって何だろう。”と人生の意味を探していて』

畢竟他の団員達と同様な考え方であった。
やはりこの種のオフ会に集く人間は似た様なものなのであろう。
身体障害者でも精神障害者でも何でもない、普通に生活出来る程度には支障の無い人生を送っている人間が余裕を持て余して生きる意味や幸せについて考えているのだ。
そして俺はあいつの言葉を思い出す。
脳に焼き付いて離れない、永久に忘れられない言葉。
何時までも俺の思考回路を支配し続ける、一人の中学生が言い放った言葉。
このインタビューされた人間が何を考えていたのか知る由がない。
尤も、インタビューされた人間は不幸だった。
只それだけのことである。
幸せとは主観的で、そして一時的なものである。
幸せを掴んでその後も幸せで在り続ければ、その内更なる幸せを求める様になる。
『それ以上の幸せ』を知っているから。
だからこそ「幸せになる」というのは間違っている。
上昇志向は勝手なことだが上が在ることを理由に現状を不幸だと感じるのは実に馬鹿げたことであるのだ。




例の団体から事前確認のメールが来た。


お世話になっております、


この度は、7/21(土)開催のワークショップ、
少し気楽に「自分らしさ」から「生きやすさ」を眺める
にご応募いただきありがとうございます!

当日に関する最終確認のため、ご連絡を差し上げました。


★ご都合悪くなりご欠席の場合★

再度こちらのメールへ7月19日までにご欠席のご連絡を願いいたします。


_________

☆少し気楽に「自分らしさ」から「生きやすさ」を眺める☆

☆日時☆
7/21(土)13:30~16:30
(当日は13:20を目処に下記会議室にお越しください。また、当日の進行状況によって終了時間が前後する場合がございます。)


☆開催場所☆
台場区民センター 第1集会室

☆最寄駅:ゆりかもめお台場海浜公園駅」徒歩3分

(東京都港区台場1-5-1台場コミュニティーぷらざ内)



☆タイムテーブル☆

13:30~13:50 Graduce説明・WS説明
13:50~14:20 自己紹介・アイスブレイク
14:20~14:35 シート記入(ポジティブ・ネガティブ)
14:35~15:00 ポジティブな話の共有
15:00~15:25 ネガティブな話の共有
15:25~15:35 休憩
15:35~15:50 シート記入(「自分らしさ」・「生きやすさ」)
15:50~16:20 「自分らしさ」と「生きやすさ」の共有
16:20~16:30 感想



☆内容詳細☆

最初に「ポジティブな話題」と「ネガティブな話題」をグループごとに共有し、その後「理想的な自分」や「目標とする自分」などの「自分らしさ」についてお互いの考えを話し合います。
最後に「自分らしさ」の話し合いを踏まえて「理想的な生活スタイル」や「近い将来に実現したいこと」などの「生きやすさ」についてお互いの考えを話し合います。



又、当日は活動記録としてワークショップの様子の

写真を撮らせていただきたいと思っております。

お顔が映らないようにいたしますが、

ホームページへの記載が難しい場合はご連絡ください。



ご不明点等ございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。
お会いできることを楽しみにしております。

メールの差出人はバス団員である。
どうやら今回はこの人も参加するらしい。

7/20(金)。
今日は生物工学も休講であり、実験も終了しているので学校がない。
昨日は北海道東日本フリーパスを購入した後碌なことをせずに寝ていたのでそろそろ試験勉強を進めなければならない。
こんな文章を書いている今(7/20,13:46)もそんな暇はないのだが。
9時過ぎに起床した後、風呂にも入らず図書館に行き生化学の本を物色し、ヤオコーでアイスを買って家に帰り、ISLANDのアニメを見ただけである。
明日は例の団体のオフ会であった。
試験期間前にも関わらずそんなものを入れる程度の余裕があるのか自分に問い質す。
最近はそんなことよりも早く北海道に行きたいという感情しか沸かないのだ。
それまでは勉強も例の団体も全て二の次であるのだ。
例の団体の現状をいつも通り確認してみることにした。
俺は普段も時々思い立って例の団体のアメブロやホームページを閲覧している。
立ち上がったばかりであるらしいこの例の団体『Graduce』は昨年迄は数人程度の規模であったが、最近では人数の規模を増やしつつある。
現在団員数は11人であるとホームページに記載されている。
例の団体はこの様に20台前半から30台後半までの男女から構成されている。
現在女5人、男6人。
女団員は全員20台前半。
バス団員、対面団員、ギャル団員、保育士団員等が居る。
男団員は20台前半2人、20台後半2人、30台前半1人、30台後半1人。
20台前半は団体設立者ともう1人顔だけ見たことのある団員。
30台前半は司会団員。
20台後半と30台後半の奴らはこの前の新入団員3人であろう。
20台後半2人は未だ詳細不明であるが、30台後半の1人は最年長団員であることが分かっている。
この団体は頻繁に団員募集の広告を出している通り、割と入れ替わりが激しい。
その為今誰が居るのかは詳細には把握出来ない。
俺と面識がある中で現時点(2018,11)で残っていると判明しているのはバス団員、ギャル団員、団体設立者、司会団員である。
その中でもバス団員、団体設立者、司会団員の3人は団体設立初年度から居た古参であるので、この団体の実質的な中核としてはこの3人が挙げられる。
団体HPのメンバー紹介も上記以外の団員達が基本現れたり消えたりするのを繰り返す不安定な状態が続いている。

団体メンバー紹介
https://graduce.amebaownd.com/pages/1312499/page_201709301959

例の団体は東京周辺で活動をしている。
例の団体は定期的に実施するオフ会だけではなく、時々『勉強会』なるものを開催して集会している。
何をしているのかは謎であるが、定期的に実施している為彼らなりに意味があるものなのであろう。
アメブロを漁っていると新団員の書いたブログ記事を見つけた。
これはメンバー紹介で見掛けたあの最年長の団員のものであるらしい。

▼参考
https://ameblo.jp/graduce/entry-12391552132.html

30台後半ということもありそいつの風貌をおっさんと認定した。

『「健康な人よりも収入は少ないが、その分だけ残業もなく休暇もとりやすい」、「定期的に通院しているから、健康な人よりも食生活に気をつけられる」、「難病を抱えているからこそ、思いやりをもって他人に接することができる」など、自分の現状を肯定的に捉え、生きやすさを徐々に実感することができるようになりました』

それらはこじつけの様な気がするが。
牽強付会団員…と渾名を付けようとしたが、単に最年長団員と言った方が分かりやすいので畢竟そちらを採用することにした。
最年長団員はブログ記事では冒頭でよく自らが団体中最年長であることを名乗っていた。
他の団員の書いた記事では態々自分の年齢を書くようなことはない。
そこまで主張したいことなのか。
どうでもいいことだが。
最年長団員も他の団員と同様に彼らが謳う「生きづらさ」を昔経験したらしい。
最年長団員の場合は持病があった様だ。
他の団員には友人や母親の死があった奴がいる。
一方、特に彼らの様な危機に陥ったことはない団員もいる。
この様に団員には様々な境遇の奴がいる。
しかしながら彼らは共通して「生きづらさ」に対して似た様な思想を抱き、そして何だかんだ言いながら普通に社会生活を営んでいる。
社会に出ることすら儘ならない障害者や引き篭もりが彼らの中に加わることはない。
彼らの共通点としては更にコミュ力が普通にあり、友達も一般人程度にはいるということが挙げられる。
中3のネット廃人時代の俺であれば彼らをリア充と呼称しては彼らの「自分はリア充ではない」という態度に忿懣し、一晩で彼らについて数千字の文章を書き上げていることであろう。
俺は同じ本当の社会不適合者が何時しかオフ会に現れる時を期待している。




新橋からゆりかもめ線でお台場海浜公園駅まで向かった。
各車が分断されている構造であるらしい。
高い。
景色が良い。
最寄り駅に1時間以上早く到着した後、駅前のスーパーで飲料を購入。
近傍にあったお台場海浜公園に立ち寄った後、目的の港区立台場市民センターに到着した。
集会室の場所を確認する。
建物の1階、出入口から入って直ぐの場所にある。
当然未だ誰も来ている訳がなく、中は消灯されたままである。
建物の2階に上がった。
事前に調査した通りの図書館を発見した。
13時20分前まで勉強を続けていた。
集会室に入ろうとした。
メールやサイトには第1集会室であると書かれていたので入ろうとしたが扉が開いていなかった。
そこで別の入口から団員と思しき人間が声を掛けてきた。
入口は第2集会室側からであったらしい。
どうやら第1集会室と第2集会室を同時に使用している様だ。
中に入ると受付の人間に声を掛けられた。
バス団員がいた。
挨拶されたので軽く首肯する。

「私のこと覚えてますか?」

反応が薄かった為そう思われたのかもしれない。

「LINEが携帯替えたとき消えたので…」

バス団員はLINEの再交換を催促してきた。
LINEを交換することに意味は無いと考えたが拒否はしなかった。
バス団員は他の参加者ともLINEを交換していた。
他の団員でもここまで積極的にLINEを交換しようとする奴はいない。
単にLINEの友達の数を増やしたいだけなのか?
今のところこのLINEが使用されたのは社交辞令及びオフ会勧誘連絡用途でしかない。
あまり興味はないので気にしないことにした。
指定のテーブルに着いた後物理化学の教科書を読んで時間を潰した。
俺の隣の席にバス団員が座った。
時間になると説明が始まった。
いつも通り団体の説明から始まり、オフ会の概要を説明される。
団体の説明のスライドで現在の団員数が表示された。
12人。
いつの間にか1人増えていた。
次に恒例の自己紹介タイムが始まった。
周囲をよく見た。
男ばかりである。
そして誰が団員であるのかも分からない。
今回の参加者達は3回連続でオフ会に参加している暇な人間から初参加の人間まで色々と存在したが、特に特筆すべき人間はいない。
やや意識高い系の似た様な男達が一堂に会している。
既知の団員は団体設立者、バス団員、司会団員、保育士団員が参加者しているらしい。
他にも団員らしき女と男がいた。
誰が誰なのか分からない。
女は自分の名を述べた。
ホームページの自己紹介ページで見掛けた名前であった。
あのホームページには団員数は11人とあり、自己紹介の人数も11人であった。
自己紹介記事では女子は5人いた。
誰か1人が自己紹介記事を書いていないことになる。
新大学生団員と呼ぶことにした。
俺と同じテーブルにいる団員はバス団員の他、もう1人いたようだ。
そいつは先程俺が入口を間違えた時に声を掛けてきた団員であった。
入口錯誤団員と呼ぶことにした。
既知の参加団員は5人。
既知の団員の内、団体設立者、バス団員、司会団員、保育士団員は最初部屋に入った後に反応してきた。
団員の内情がよく分からない。
どうでもいいことだが。
自己紹介では俺は渾名を名乗り、夏行きたい場所に北海道を述べた。
よく見たら今回の一般参加者は男しかいないようである。
逆に女子は団員のバス団員と新大学生団員だけ。
女は2人とも若いが男には大学生位の奴から社会人のおっさんまでいた。
ここまで圧倒的に女子比率が少ないのは俺がこれまで参加したオフ会に於いて初めてであった。




自己紹介後、アイスブレイクに入った。
アイスブレイクとは毎回オフ会で本題に入る前に行う簡単なグループワークみたいなものである。
今回はいらすとやの「泣いている男の子」「泣いている女の子」「泣いている大人」「泣いている犬」が各々中央に印刷された白い紙に何かポジティブなオブジェクトを書いて付け足すというものであった。
俺は最後まで何も書かなかった。

アイスブレイク後、ワークシートを記入し、「ポジティブな話題」と「ネガティブな話題」を話し合った。
俺はバス団員に話を投げ掛けられたら頷いたりしただけで殆ど喋っていない。
休憩時間中も物理化学の教科書を読んでいるとバス団員が気にしてきた。
何読んでるのと訊かれたので無言で表紙を見せた。

「カラダの…化学?」

そう解答するのも確かに分かるが。
バス団員は読んでみたいと言ったので暫く貸した。
理解は出来なくても何となく読んでみたいらしい。
この1週間碌なことしていなかった癖にこういう時にしか勉強出来ない。
俺は試験期間前に時給1000円のバイトを休んでこの様なオフ会に参加することは合理的であるかを今一度考えた。
本来ならばこの時間はバイトのシフトがあった時間帯であった。
勉強よりもバイトよりもオフ会を選択するとは、俺は既にどうにかしているのかもしれない。
バス団員はふと突然俺に対して現在自分はフリーターであることを述べた。
入社して1年で疲れたので辞めたらしい。
バス団員は1年前に会った時とは違って眼鏡を掛けており、風貌が変わっていたのでもしバス団員であると最初に名乗られなかったら気づかなかったかもしれない。
指や肌の状態はあまり健康的とは言えず、至る所がパックリと割れているように見えた。
窶れて見えるのはその為であった。
…そこまで酷い会社だったのか?
社会人時代の清潔感はなくなったようだが、性格自体はあまり変わっていないようだ。

更に休憩を挟み、次に本題の「自分らしさ」と「生きやすさ」をワークシートに記入した後話すことになった。
例の通りグループ内で適当な順に発表していくが、何も浮かばない。
傍聴中、彼らの発言は耳には入ったが頭には入って来なかった。
「自分らしさ」とは何なのか不明である上に、生きやすさに関しては感じたこともない。
故に自分らしさが定まっていないと述べた。
そこでバス団員が先程同じ意見が出たことを述べた。
当然そんな覚えは全く無い。
前回も似たようなことを言われた気がする。
考え事をしながら話を聞く能力は生憎持ち合わせてはいないのだ。
思い付いたことをその場で話した。
事前に考えていた訳ではないので出任せである。
同じグループのバス団員と入口錯誤団員がワークシートにメモを記入していく。
熱心に発言内容を書いてくれているが、それらは全てその場の思い付きであるのが申し訳ない。

「何か達観してるね」

「達観してる」

グループの奴らから言われる。
他に何も思い付かなかっただけだ。
一番特異な意見であることは確かであるが。

「すごいよく考えているんだなあ…って思いました 」

バス団員が感心した様に言う。
どうしてこうなった。

その後は特に何を話すこともなく終了した。




今回のオフ会は特に何も語るべきことはない。
現在の団員の構成が気になった位である。
後日、いつものように気紛れで例の団体のブログを閲覧した。


https://ameblo.jp/graduce/entry-12392517803.html

最近は団体設立者ばかりが投稿しているようだ。
そういえば団体設立者は現在仕事がないと言っていた。
しかしブログによると再び9月からファイナンシャルプランナーとして働き始めるようだ。
ファイナンシャルプランナーの資格は勉強をしたことがあるが難しくはない。

『ボランティアは、常にいろんなことを「考え続ける」ことが大切です。社会と自分の関係、参加者と自分の関係、団体のメンバーと自分の関係、解決したい社会課題、そこに自分がどのようにどの程度関わるのか?』

聞くことによると例の団体は社会に対して影響を与えたいという目的があるらしい。
その団体理念がある為、彼らは自らを「ボランティア」と位置付けている様である。
この団体が実際に与えている影響はごく僅かで、ほんの一部の個人でしかないのは自明であることだ。
俺はこの団体に懐疑した。
2016年8月に設立された団体。
何故この様な団体が存在するのか。
この団体は何がしたいのか。
他にもこの様な団体があるのか。
殆ど社会に与えられる影響は無いのに何故活動を続行するのか。
オフ会に3回参加してもこの団体の真の目的が何なのかは未だ解明出来ない。
更に参加回数を重ねるか、アプローチ方法を変えるかしなければ究明は出来そうに無さそうだ。
下らないことを考えていると時間がいつの間にか過ぎてしまっていた。
今は試験直前であり何も考えている暇はない。
俺は長文を打つのを中断して勉強することにした。